ログイン夜の学校とは、なぜこんなにも気味が悪いのだろう。
いつもより数倍おどろおどろしい雰囲気を醸し出している学校を見つめながら、私はここへ来てしまったことを後悔し始めていた。
真っ暗な中、不気味な要塞のようにそびえ立つ学校。
空気も、気のせいかいつもより冷たく感じる。
周りを取り囲む只ならぬモノたちが存在しているかのような妖気を感じ、私は身震いした。学校の外でこんな状態なのに、中はきっとさらに恐ろしいに違いない。
私は心の中で何かお経のようなものを唱えながら、学校の門をくぐっていった。
門から玄関までの道のりを、一歩一歩ゆっくりとした歩みで進んでいく。 何かが突然現れてもいいように、私は辺りへの警戒を緩めようとはしなかった。その間、たくさんの生徒たちとすれ違っていく。
カップルらしき男女二人組、友達同士で来ていると思われる複数組、たった一人で来ている強者までいる。まあ、ほとんどが男女のカップルだけど……。
そりゃそうだよね、そのためのイベントだし。 皆、怖くないのかな。私は辺りをキョロキョロと見渡してみるが、皆楽しそうに友達と語り合ったり、男女で気恥ずかしそうに話したり、恋人のように寄り添ってラブラブな雰囲気を醸し出す人たちばかりだ。
その様子に、私はため息をつき、肩をがくっと落とした。
実は私、幽霊とか苦手で、結構な恐がりだったりする。
肝試しなんて普段なら絶対参加しない。今日は生徒が企画したこととはいえ、学校も協力していた。
生徒の中に先生が一人混じっており、その先生が点呼を取っている。 来た時と帰る前に、その先生に名前を言う仕組みらしい。生徒が考えた企画を学校を挙げて応援してくれるなんて、すごいな。
うちの学校は、生徒想いのいい学校だったんだ。と、今更ながら学校を見直す私だった。そのおかげもあってか、恐怖で冷え込んだ私の心がほんのりと温かくなった……ような気がする。
点呼を済ませた私たちは、他の生徒たちに混じって開始の合図を待つ。
「お嬢、私はここでお待ちしておりますので」
案の定、私についてきた龍が私の耳元で静かにそう告げた。
まあそう来るだろうと予測していた。龍はただ私の護衛という目的で付いてきただけだから。 さすがに、学校の中まで付いてきて、肝試しに参加はしないだろうと思っていた。しかし、その龍の発言に、貴子がすぐさま反論した。
「龍さんは私と参加しましょう! 流華はヘンリーと行くから」
貴子は龍の腕に自分の腕を無理やり絡め、グイッと引き寄せた。
その行動に驚きを隠せない龍は、貴子の腕から急いで逃れようとする。「な、何を! 私はここで待ちます」
「えー、なんでですか? 私では、嫌ですか?」貴子が甘えるように、龍を上目遣いで見つめた。
「あなたが嫌、というわけではなく……っもし行くのなら、お嬢に付いて行きます」
その言葉に、貴子はムッとして龍を睨みつけた。
「流華はヘンリーと行くの!
それに、二人一組だから、どうせあなたの愛しいお嬢とは行けませんからっ」べーっと舌を出し、頬を膨らませる貴子。
龍は困りきった表情でため息をつく。「龍、貴子と行ってあげて。ね、お願い」
なぜそこまで龍にこだわるのかわからなかったが、貴子が一生懸命な姿を見て応援をしたくなった私は龍にお願いしてみる。
龍は一瞬固まって、私のことをじっと見つめた。
しばらくすると観念した様子で頷く。「……お嬢の頼みなら、わかりました」
龍のその一言で、カッとなった様子の貴子が叫んだ。
「何よ! もういいっ! 私帰る」
貴子は龍のあからさまなその態度に腹を立てたのか、私達に背を向けた。
「ちょ、貴子!」
「流華はヘンリーと行ってきなさい!」貴子がビシッと私を指差す。
その迫力に、私はおずおずと頷くしかなかった。 しばらくすると、門の前に颯爽と車が現れる。 黒光りする高級車だ。お付きの人が車のドアを開けると、貴子は乱暴に車に乗り込む。
車内から不機嫌そうな表情の貴子が私に向かって手を振っていた。手を振りながらその姿を見送ったあと、私は龍を睨みつける。
「女の子の誘いを断るなんて……サイテー」
「申し訳ありません。どうも、あの方の考えていることが私にはわかりかねます」龍は申し訳なさそうに頭を下げる。
まあ、この男に乙女心を解れという方が無理か。その手のことは、すごく鈍そうだし。「はじまるみたいだよ」
私たちのやり取りには参加せず、一人端の方で待っていたヘンリーがぽつりとつぶやいた。
その言動には、いつもの彼の明るさは一切感じられなかった。
そして気づけば、私はベッドに押し倒されていた。 龍の唇がいったん離れ、私を見下ろす。 その目は、欲望と愛情がないまぜになって、熱を孕んでいる。「……龍、好き」 私は手を伸ばし、彼の頬にそっと触れる。 その指先が誘うように動いてしまう。「流華、愛してる」 再び口づけると、今度は唇が首筋へ、鎖骨へと降りていく。 優しく、でも確かにそこに愛を刻むように。 彼の手が、肌に触れるたび、心が震え、喜びを感じる。 あたたかく、やさしく、そして確かな愛が、全身に伝わってくる。 私はその愛を、全身で受け止めていった。 お互いの呼吸が、だんだんと熱を帯び、交じり合っていく。「流華……」「龍……」 見つめ合い、もう一度想いを確かめ合った、そのとき―― 「流華ー、どこじゃー?」 階下から祖父の声が聞こえた。 二人とも、まるで時間が止まったように固まった。 そして、目が合った瞬間、同時に吹き出してしまう。 笑いながらも、どちらともなく名残惜しそうに視線を交わす。 よくもまあ、毎回邪魔が入るものだ。 しかもこのタイミング……。 おじいちゃん、わざとじゃないでしょうね? 慌てて脱いでいた服を拾い集めながら、私は小さくため息をついた。 龍も苦笑しながら、いそいそとシャツのボタンを留めていく。「……まあ、これからいくらでもチャンスはあるよね? ずっと一緒にいるんだし」 私は龍の腕にぴたっと寄り添いながら、上目遣いで微笑んだ。 龍は一瞬、ぽかんとした顔をして、それから顔を真っ赤にして頷いた。「は、はい! が、頑張ります!」 頑張るって……真面目すぎ。 でも、そこが龍らしくて、好き。 もう一度、見つめ合う。 自然と私たちは、軽くキスを交わした。 龍の温もりを感じながら、ふと手元に目を落とす。 指に光るリングが目に入った。 それを見つめながら、そっと目を細めた。 ☆ ☆ ☆ 私には、大切な指輪がふたつある。 ひとつは、ヘンリーからもらった指輪。 もうひとつは、龍からもらった指輪。 どちらも、大切な私の宝物。 どちらが欠けても、きっと今の私はいない。 今の幸せもなかった。 たくさんの想いが繋いでくれた、この幸せ。 私はそのすべてに感謝しながら、これからも歩いていく
名残惜しそうに、私たちはそっと身体を離し、見つめ合った。 プロポーズがうまくいって、安心したのか―― 龍は穏やかな瞳で、愛おしそうに私を見つめている。「……ありがとうございます。断られたら、どうしようかと思ってました」 ほっとしたように息をつく。 その様子があまりに素直すぎて、思わずくすっと笑ってしまう。「断るわけないでしょ?」「でも……今回、いろいろありましたし。 俺の過去のこととか……。 お嬢に嫌われたら、って。もう、気が気じゃなかったです」 龍はそう言うと、少し情けないような顔で私を見た。「何言ってるの? 私は龍が好きだし、昔のことなんて気にするわけないでしょ」 胸を張る。 当然でしょ、という顔で。「だって、私は如月組組長の孫なのよ? 暴走族だったぐらい、何とも思わない」 その言葉に、龍は一瞬目を丸くした。 それから、嬉しさと困惑が入り混じったような、複雑な表情をする。「……そうですよね。 でも、お嬢は昔から、組のことをあまり良く思っていないのかと……。 だから、そういうものが嫌いなんじゃないかって」 ああ、きっとそれは――。 たしかに昔は、組の家に生まれたことに悩んだ時期もあった。 家系のことで周りから異質な目を向けられ、苦しかったあの頃を思い出す。 でも、今は違う。「それは、私の心が弱かっただけ。 今は、組のことも、みんなのことも、大好きだよ。 大切な人たちが、たくさんいるから……その人たちを大切にしようって決めたの」 そう言って、私はそっと龍に寄り添った。 龍は驚いたような顔をして、それから優しく肩を抱き寄せてくれる。「お嬢は……ほんと、いい女ですね。惚れ直しました」「ふふっ。でしょ?」 顔を近づけて微笑み合い、自然と二人の距離が縮まる。 そのとき、龍がポケットから、さっきの指輪を取り出した。「お嬢、手を」 その一言に、心臓がトクンと鳴った。 私はおとなしく左手を差し出す。 龍の手が私の指をそっととらえ、薬指にリングをはめていく。 リングはぴたりとおさまり、淡い光を放つ。「……きれい……」 思わずつぶやくと、「流華さん」 名前を呼ばれ、顔を向けた瞬間――龍が口づけてきた。 驚いたけれど、嬉しい気持ちが勝った。 私は目を閉じて素直にその
澄んだ瞳が、わずかに熱を帯びて潤んでいる。 そこから彼の想いが伝わってくる。 私は目を逸らすことができなかった。 そんな目で見ないで。 心臓がもたないよっ。 まったく、もう…… でも、まさかそんな昔から想ってくれていたなんて。 嬉しい。 すごく、嬉しい――けど。 なに? なんなの? このドラマチックな展開は! 胸がいっぱいになる。 顔が火照って熱い……。「組に入ってから、俺は親父に頼み込んで、お嬢に仕えさせていただくことになりました。 それからは……本当に幸せな日々でした。 だって、大好きな人のそばにずっといられるんですから」 その目はまるで、私しか映していないようだった。 熱を帯びた視線が、ずっと私に注がれ続けている。 息をするのも忘れそう。 観念したように龍を見返した。 ……そのとき、龍がそっとポケットに手を入れる。 ごそごそと探ったあと、その手を私の前にそっと差し出した。 彼の手の上には、白く小さな箱。 こ、これって!? 私は息を呑み、大きな目で龍を見つめる。 龍は頬を赤らめ、静かに頷いた。 そっと箱が開かれる。 そこには、ひとつのリング。 中央に小さなダイヤモンドが光り輝いていた。「龍っ……これっ……」 息が詰まり、うまく言葉が出てこない。 龍は一度深呼吸してから、真剣な眼差しを向けた。「流華さん――俺は、あなたが好きです。 世界中の誰よりも、あなたのことを愛しています」 一泊おいて、龍は決意のこもった声で言葉を紡いだ。「結婚、してくれませんか。 あなたと生涯を共にできる喜びを……どうか、俺にください」 そう言うと、龍は息を詰めるように黙り込んだ。 私の返事を待つように。 こ、これは……プロポーズ!?
そんなこと、あったような、なかったような……。 何年も前のことだから、記憶はあやふやだ。 というか、似たようなことは何度もあったから、龍が言っているのが「どの時」のことなのか、よくわからなかった。「なんと、その少女は――見事に男子高校生三人を華麗に倒しました」 龍は懐かしそうに目を細めながら、静かに語る。「俺の目は、一瞬でその少女に釘付けになりました。 風のように舞い、まるで踊るように戦う姿……思わず、見惚れてしまったんです。 きっとそのときには、もう、あなたの虜になっていたんでしょうね」 その口調は穏やかで、でも、どこか熱を帯びている。 目の前にいるのはいつもの龍のはずなのに。 まるで別人みたい。 たぶん、昔のことを思い出しているせいかもしれない。 私の知らない龍が、そこにはいるような気がして。 でも、龍が十八歳のときって、私は十歳。 ……そんな頃から、私のことを? なんだか不思議で。 でも、嬉しくて。 胸の奥がじんわりと熱くなった。「それから、俺はその少女のことを調べ上げました」 龍はまた、昔に想いを馳せるように遠くを見つめる。「如月組の組長――如月大吾の孫だと知った瞬間、俺は決めたんです。 族を抜け、この人たちと生きていこうと。 そのときの衝動は……今でもうまく説明できません。ただ、どうしようもなく突き動かされた」 彼は静かに笑った。 ちょっと照れてたように。「突然、組に入れてくれと親父に頭を下げたときは、そりゃあ驚かれました。 でも……なぜか親父は、すんなり俺を受け入れてくれたんです」 そのときのことを思い出しているのか、龍の顔は少年のように無邪気だった。「普通ならありえない話です。 どこの馬の骨ともわからない若造を、簡単に受け入れるなんて」 龍は優しい声で続けた。「あとで理由を聞いたら、『だって、龍、めち
私は自室で、龍を待っていた。 さっき「昔の話を聞かせて」と頼んだとき、龍は数秒間、固まったままだった。 そして、ゆっくりとこう答えたのだ。「……わかりました。お嬢は自分の部屋で待っていてください。すぐに行きますから」 そう言って、龍は自分の部屋に戻っていった。 その背中はどこか重たく、表情も乗り気とは言いがたかった。 ……そんなに昔の話をするのが嫌なのだろうか? あるいは、私が暴走族に嫌悪感を持つと思っているのかな。 もやもやと考えながら、私も自室に戻った。 そして今、龍待ち状態である。「はあー……」 私は大きく息を吐いて、ベッドの上にごろんと寝転んだ。 その瞬間、ふいに思い出してしまう。 この前、ここで私と龍は…… はっとし、体を起こす。 そのタイミングで、コンコン、とドアがノックされた。「は、はい!」 返事をしながら、胸が高鳴る。 龍と二人きり……自分の部屋。 ただそれだけの状況なのに、鼓動がやけに早い。 だって、あのときと同じ。 いや、まさか龍もそんなふうに意識してるなんてことは。 ……考えすぎだよね? とにかく、変なふうに思われないようにしないと。 こんな気持ちがバレたら、超絶恥ずかしい! 「落ち着け、私」って、自分に言い聞かせながら、そっと息を吐いた。 その瞬間――扉が開いた。 ゆっくりと龍が入ってくる。 目が合った瞬間、彼はふっと口元を緩め、笑った。「お待たせしました。……隣、いいですか?」 そう言って、私の隣を指差す。 ベッドの上を。「えっ!」 思わず声がうわずった。 龍はきょとんとした顔で首をかしげる。 しまった。 あんまり挙動不審だとダメだよね……!「ど、どう
すると、ずっと黙っていた龍が口を開く。「何にせよ、お嬢がおまえを好きになることは絶対にない。あきらめろ。 そして、中村透真に体を返せ」 真顔で淡々と告げる龍に、ヘンリーはあっかんべーをした。「なんだよ、龍。流華を独り占めしちゃってさ。 今回だって流華のこと、僕いっぱい支えたんだからね。流華が傷ついて寂しそうなとき傍にいたんだ。ね、流華」 ヘンリーが私に甘えるような態度と視線を向けてくる。「え? まあ、ヘンリーには感謝してるよ。いつも助けてくれて……。 貴子と同じくらい大切」 その言葉に、ヘンリーは眉を寄せ納得していない様子を見せる。「それって、親友ってこと?」「まあ、そうなるかな」 私が頷くと、ヘンリーはしょんぼりと肩を落とした。「だよね、流華は龍がいいんだもんね。僕の入る隙なんてないよね……」 急に激しく落ち込むヘンリーのことが可哀そうに思え、励まそうとした。「ねえ、ヘンリー……」「隙あり!」 ヘンリーが突然私の頬にキスをする。 不意打ちだったので、避けられなかった。 急いで距離を取る。「へへっ」 ヘンリーはニコニコと満足そうに笑っている。 そのとき、辺りの空気が一変した。 龍から発せられるオーラが、不穏で邪悪ものへと変わっていくのがわかった。 おそるおそる龍へと視線を向けた。 閻魔大王のような表情の龍が、ヘンリーを冷ややかな目で見据えている。 状況を察したヘンリーの顔が、みるみる青ざめていった。「りゅ、龍! 落ち着いて。ジョークだよ、ほら、いつものことでしょ?」 ふざけて笑い飛ばそうとするヘンリーだったが、龍の怒りは収まる気配がない。「貴様……」 龍がゆっくりとヘンリーに歩み寄る。「ご、ごめんなさーい!」 やばい空気を察知したヘンリーは、急いでその場から逃走する。
「うわぁ、綺麗……!」 思わず、感嘆の声が漏れた。 小高い丘の上。 そこから見下ろす景色に、私は一瞬で心を盗まれた。 街並みに目を向けると、建物はまるでミニチュアのように小さく見える。 人の姿なんて豆粒ほどだ。 こういうものを前にすると、人間なんてちっぽけな存在に思えてくる。 ほんのり赤く染まり始めた太陽が、辺りを包み込んでいく。 町も丘も、オレンジ色に染まりながら優しく輝いていた。 なんだか、ロマンチック……。 丘の周囲には低木や草花が広が
次の休日。 私はヘンリーを連れ、中村透真のもとへ向かっていた。 龍にだけは事情を話し、アルバートとシャーロットを引き留めておくようにお願いした。 あの二人は常にヘンリーに付きまとってくるので、今回も放っておくと必ず付いてくるだろう。 それは困る。 龍も付き添いたかったらしいが、私がお願いすると渋々承諾してくれた。 彼の父親にも承諾を取ってある。 勝手に誰かを連れて行くのは、礼儀に反すると思ったからだ。 すんなりと承諾してくれ、有難かった。「いつもご苦労様です」
その日は、祖父がちょうど留守だった。 祖父は根っからの温泉好きで、月に一度はどこかの温泉へ二泊三日の旅に出る。 風呂の中から人が出てきたなんて話、いくら懐の深い祖父でも、心臓に悪いだろう。 今日がその“温泉の日”で、本当に良かった。あとで落ち着いて、ゆっくり説明できる。 ……とはいえ。 龍が用意した浴衣に身を包み、ふかふかの布団で気持ちよさそうに眠る謎の男。 その寝顔を前に、私はなんとも言えない気持ちになっていた。 改めて見つめると、やけに整った顔立ちだ。 まるで絵に描いたような美少年。 普段見慣れているのはいかつい極道たちばかりだから、余計にそう感じるのかもしれな
「んー、いい気持ちっ」 湯舟の中で、思いきり伸びをする。 自然と鼻歌がこぼれ、明るいメロディーが風呂場をやさしく包み込んでいく。 靄の中、ぼんやりと夢ごこちになるこの時間が、私は好きだった。 お風呂は檜風呂。床も壁も天井も、すべてが檜でできている。 息を吸い込めば、ほんのり漂う木の香りが心地よい。 この檜風呂は、おじいちゃんの趣味だ。 私の祖父は、極道一家――如月家三代目組長、如月大吾(きさらぎ だいご)。 “泣く子も黙る”……と言いたいところだけど、今では孫に甘い、ただの普通のおじいちゃん。 昔は相当尖っていたらしいけど、私の両親が亡くなってから丸くなったと、組の人







